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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)8281号 判決

原告

高山重利

ほか一名

被告

石塚敬一

ほか一名

主文

被告らは各自、原告高山に対して一三一万一〇〇〇円と内一二一万一、〇〇〇円に対する昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告京王自動車株式会社に対して八五万一、三三五円と内七八万一、三三五円に対する昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

被告青柳は、原告京王自動車株式会社に対して一万八、〇〇〇円とこれに対する昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告らに対するその余の請求を各棄却する。

訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らのその余を被告らの各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは各自、原告高山に対して三五三万〇五〇〇円と内三〇七万円に対する昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被告石塚は、原告京王自動車株式会社に対して九五万八、二六六円と内七九万八、五五五円に対する昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被告青柳は、原告京王自動車株式会社に対して九七万六、六一一円と内八一万六、九〇〇円に対する昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三請求の原因

一  (事故の発生)

原告高山は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

なお、この際原告会社はその所有に属する自動車を損壊された。

(一)  発生時 昭和四二年三月五日午後一時五〇分頃

(二)  発生地 東京都三鷹市下連雀五六〇番地先路上

(三)  加害車 乗用車(練馬西な七七〇四号)

運転者 被告青柳敬二

(四)  被害車 乗用車(多摩五き五七七号)

運転者 原告高山

被害者 原告高山

(五)  態様 追突

(六)  傷害の部位・程度 腰部・背部挫傷、頸椎鞭打傷害、感音糸難聴および耳鳴等の傷害を受けて、昭和四二年三月五日から同四四年九月一五日までの間治療したが、なお自賠法施行令別表の等級九級に該当する後遺症が残つている。

二  (責任原因)

被告らは、左の理由で原告らが本件事故により受けた損害を賠償する責任がある。

1  被告石塚は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条による責任。

2  被告青柳は、本件事故発生につき前方不注意およびハンドル・ブレーキの操作不確実の過失があつたから、民法七〇九条による責任。

三  (損害)

1  原告高山

(1) 入院雑費 四万円

(2) 通院交通費 三万円

(3) 慰藉料 三〇〇万円

前記傷害の部位・程度に鑑み、慰藉料は三〇〇万円が相当である。

(4) 弁護士費用 四六万〇五〇〇円

右のとおり三〇七万円を被告らに対し、支払を求め得るところ、任意の弁済をしないので、本件訴訟代理人にその取立を委任し、報酬等として四六万〇五〇〇円を支払う旨の約束をした。

2  原告会社

(1) 修理代 一万八三四五円(但し被告青柳に対してのみ支払を求める。)

(2) 原告高山に対する立替費用

原告高山は原告会社の従業員であるところ、災害補償規程に基いて、同原告が本件事故により受けた損害のうち、左のとおり、治療費と休業損害の一部として合計七九万八五五五円を支払つた。

(イ) 治療費 二二万六四七五円

(ロ) 休業補償 二一〇万五三六五円

原告高山は、原告会社で運転手として稼働し、一日当り一八五七円の収入を得ていたが、本件事故により昭和四二年三月六日から同四四年九月一五日まで(九二五日)休業を余儀なくされ、その間の給与賞与が得られなくなり、左のとおり合計二一〇万五三六五円の損害を受けた。

給与一七一万九七二五円(一八五七円×九二五)

賞与 三八万五六四〇円

昭和四二年度分 一〇万八六三七円

同四三年度分 一四万七五五五円

同四四年度分 一二万九四四八円

(ハ) 右損害のうち一五三万三二八五円の填補を受けた(労災保険から一〇一万一二六五円、自賠責保険から五〇万円、被告青柳から一部弁済として二万二〇二〇円)ので、残額は七九万八五五五円となる。

3  弁護士費用 一五万九七一一円

右のとおり、被告石塚に対して七九万八五五五円、被告青柳に対して八一万六九〇〇円の各支払を求め得るところ、被告らは任意の弁済をしないので、本件訴訟代理人にその取立を委任し、報酬等として一五万九七一一円を支払う約束をした。

四  (結論)

以上原告高山は、被告らに対して三五三万〇五〇〇円、と内弁護士費用を除いた三〇七万円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告会社は被告青柳に対して九七万六六一一円と内弁護士費用を除いた八一万六九〇〇円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の、被告石塚に対して九五万八二六六円と内弁護士費用を除いた七九万八五五五円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四請求原因に対する認否

請求原因一の(一)ないし(五)と被害車が損壊されたことは認めるが、同(六)は知らない。

請求原因二のうち被告石塚が加害車の所有者であることは認めるが、被告青柳に過失があつたとの主張は争う。すなわち本件事故は、加害車の後続車が、加害車に追突し、その衝動によつて加害車が被害車に追突して発生したものであり、被告青柳には何の過失もない。

請求原因三は知らない。

第五立証〔略〕

理由

一  請求原因一の(一)ないし(五)と被害車が損壊されたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると同原告は、本件事故によりその主張どおりの傷害を受けて左のとおり治療したことが認められ、他にそれを左右するに足りる証拠はない。

(一)  野村病院

通院 昭和四二年三月五日

同年一二月二八日から同四四年三月三一日までの間(実日数二〇〇日)

(二)  三鷹台整形外科病院

入院 昭和四二年三月九日から同年五月八日まで

通院 同年三月六日から同年六月八日まで(実日数三日)

(三)  福生病院

通院 昭和四二年五月八日から同年一二月二七日まで(実日数一五二日)

(四)  慶大病院

通院 昭和四二年六月二六日から同年一二月一八日まで(実日数一七日)

(五)  東京医科大学病院

入院 昭和四四年年四月七日から同年七月九日まで

通院 昭和四三年七月五日から同四四年九月一六日まで(実日数二六日)

そして〔証拠略〕によると原告高山は、昭和四四年九月一六日に東京医科大学病院において、左のとおりの後遺症を残して症状が固定した旨の診断を受けたことが認められる。

1  頭痛、眩暈、左顔面の異常感、耳鳴、頸部―中背部痛、右後頭神経出口部に圧痛等。

2  四肢平衡機能障害、右内耳障害。

なお原告高山は、自動車運転中には左眼が見えなくなる旨述べているけれども、医師の診断書等の客観的資料はなく、単に本人の訴えのみであるから、直ちに右症状をもつて後遺症状の一つと認めるわけにはいかない。

原告高山は、右後遺症が自賠法施行令別表の等級九級に該当する旨主張するので判断する。

成程原告高山は、九級に該当すると判定された旨供述し、前記甲第三号証中労働基準監督署作成の支給決定・支払決議書には、労災等級の九級一四号に該当する旨の記載がある。けれども、判定者は明らかでなく、前記症状に、原告は昭和四四年一〇月頃には原告会社昭島営業所においてタクシー運転手として稼働を開始した事実を併せ考えると原告の後遺症が自賠法施行令別表の等級九級一四号に該当するとは認め難い。結局原告の後遺症を右等級にあてはめると一二級一二号に該当するものと判断せざるを得ない。

二  被告石塚が加害車の所有者であることは当事者間に争いがなく、従つて同被告において特段の事情を主張・立証しない限り、運行供用者として責任を負わなければならないところ同被告において右事情を主張・立証しないから自賠法三条により原告らの損害を賠償する責任がある。

被告青柳には左のとおりの過失があるから、民法七〇九条により原告らの損害を賠証する責任がある。

〔証拠略〕によると左のとおりの事実が認められる。

1  本件事故現場は、新川方面から吉祥寺方面に至る幅員七・三メートルのアスフアルト舗装道路上で、事故発生当時、路面は雨で漏れていた。

2  原告高山は、被害車(タクシー)を運転し、時速三〇ないし三五キロメートルの速度で新川方面から吉祥寺方面に進行して本件事故現場付近に差しかかり、客を乗せるべく停車した。その際バツクミラーで後方を確認したところ、後続の加害車が減速もせずに進行して来るのを発見したので、危険を感じて発進したが、三ないし四メートル進行したところで追突された。

3  被告青柳は、加害車を運転して時速三〇キロメートルの速度で被害車と同一方面から進行して来て本件事故現場付近に差しかかつた。前方約一〇メートルの地点に客を乗せるために停止していた被害車を発見したが、同車が発進を始めたので、そのままの速度で進行を続けようとした。しかし被害車が低速であつたために追突の危険が生じ、それを避けようとして急停車の措置をとつたが、ブレーキの操作が確実でなく、十分効果を発揮できないまま被害車に追突した。

右のとおりの事実が認められ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は措信できず、その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実に基くと被告青柳には車間距離を十分にとらず、ブレーキの操作も確実に行なわなかつた過失があることになる。

なお被告青柳は、加害車が後続車に追突され、その衝動で被害車に追突して本件事故が発生したと主張するが、右認定のとおりであるからそれを認めることはできない。なお〔証拠略〕によると加害車に追従して来た車も加害車に追突したことおよびその結果加害車は再度被害車に追突したことが各認められるが、二度目の追突と原告高山の傷害との因果関係は明らかでなく、また仮に加害車の後続車の運転者に不法行為が成立するとしても、被告青柳との間には共同不法行為の関係にあるものと考える。

三  原告らの損害は左のとおりである。

(一)  原告高山

1  入院雑費 三万一〇〇〇円

原告高山の入院日数は前記のとおり一五五日であり、同原告はその間一日当り二〇〇円を下らない金員を雑費として支出したであろうことは経験則上認められる。

2  通院交通費 三万円

原告高山は少くとも三万円の通院交通費を支出したと供述している。右供述は各通院に伴う交通費を具体的に示した金額ではないけれども、前記通院回数、病院の所在地等の事情を考慮すると原告高山の供述は採用できる。

3  慰藉料 一一五万円

原告高山が本件事故により受けた精神的苦痛を慰藉するのに相当な金額は、前記入院の経過、後遺症の程度等に鑑みて一一五万円である。

4  弁護士費用 一〇万円

原告高山は、被告らに対して一二一万一〇〇〇円の支払を求め得るところ、〔証拠略〕によると被告らにおいて任意の弁済をしないので、本件訴訟代理人にその取立を委任し、報酬等として四六万〇五〇〇円の支払を約束したことが認められるが、認定額その他諸般の事情を考慮すると被告らに請求し得るのは一〇万円と解する。

(二)  原告会社

1  修理代 一万八〇〇〇円

〔証拠略〕によると修理代として一万八〇〇〇円を下らない金員を支出したことが認められる。

2  立替費用

(1) 原告高山に生じた損害

(イ) 治療費 二三万八〇三五円

〔証拠略〕より認める。

(ロ) 休業損害 二一〇万三三六五円

〔証拠略〕によると原告高山は、原告会社において運転手として稼働し、一日当り一八五七円の収入を得ていたこと、本件事故による傷害のために昭和四二年三月六日から同四四年九月一五日までの間休職したことおよび右休職による同原告の損害額の合計は左のとおり二一〇万三三六五円であることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

給与 一八五七円×九二五(日)=一七一万七七二五円

賞与 三八万五六四〇円

昭和四二年度 一〇万八六三七円

同四三年度 一四万七五五五円

同四四年度 一二万九四四八円

(ハ) 填補

一五三万三二八五円の填補を受けた(被告青柳から二万二〇二〇円、自賠責保険から五〇万円、労災保険から一〇一万一二六五円)ことは原告会社の自認するところである。

(2) 原告会社の支払

〔証拠略〕によると原告会社は、同社災害補償規程に従つて前記損害残額中治療費(二一万一二五五円)および休業損害として合計七八万一三三五円を支払つたことが認められる。

3  弁護士費用

右のとおり原告会社は、被告石塚に対して七八万一三三五円、被告青柳に対して七九万九三三五円の支払を求め得るところ、〔証拠略〕によると被告らが任意の弁済をしないので、本件訴訟代理人にその取立を委任し、報酬等として認容額の一割を支払う旨の約束をしたことが認められるところ、原告会社が被告らに支払を求め得るのは、認容額その他諸般の事情に鑑みて七万円である。

四  よつて被告らは各自、原告高山に対して一三一万一〇〇〇円と内弁護士費用を除いた一二一万一〇〇〇円に対する昭和四五年八月二三日(本件記録上訴状送達の日の翌日であることは明らかである。)から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、原告会社に対して八五万一三三五円と内弁護士費用を除いた七八万一三三五円に対する昭和四五年八月二三日(訴状送達の日の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被告青柳は原告会社に対して一万八〇〇〇円とこれに対する昭和四五年八月二三日(訴状送達の日の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、原告らの請求を右の限度において認客し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新城雅夫)

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